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[1980年代中期の話]

話は1985年ごろに戻る。最初のヘヴィーなパンチは、
佐野ちゃんが僕の家に持ってきた1枚のシングル。
西独盤7インチ『アイム・ノット・イン・ラブ』の
スリーブ付き。裏面は『グッド・ニュース』だった。
リマスター盤が発売された今は珍しくない曲だが、
当時は初見。
「どうしたのよ、それ!」と僕。
「渋谷のディスクロードで買ったんだ。2000円。
でも、最後の一枚だったみたいぜ」と彼。
「………」と返す言葉もない。

彼は僕と同じ1960年生まれの10ccファンだ。
大学時代に知り合ったのだが、お互い10ccが好き
と知ったとき、まずジャブを出したのは僕のほう。


「10ccが好きなら、コレ知ってる? 『ドナ』の“100cc”とファーストの違い?」
「左右のチャンネルのミックスが逆! そんなん常識じゃん!」
これを瞬時に答えられてはたまらない。一目どころか百目ぐらいはおかねばならない。

当時は、思い出したくもないくらい貧乏だったので、新譜は彼に聴かせてもらってた。
『ミステリー・ホテル』を聴いて、「10CCも終わりだね」と今なら口が避けても
言わない、神をも恐れぬ発言をしていたのも、彼の埼玉の下宿だった。
共に東京に移り住んだ後も、彼はよくアパートに遊びに来た。今は亡きUKエジソンで、
知る人ぞ知る『Graham Gouldman Thing』LP新品1万円で買う度胸を、彼は見せてい
た(買ってから、かなり反省していたが…)。そこで冒頭に戻る…。

10CCの事なら知っているつもりでいた。そこに、いきなり「日本未発売曲」である。
シングルB面、アルバム未収録曲が多いのは分かっていた。でも、日本未発売…。

次のパンチは、1991年のレコード・コレクターズ8月号。例の10cc/G&C特集だ。
特に赤岩和美氏の10cc/G&Cシングルリストには、目を見張った。
15年以上「一番好きなバンドは10CC」と言い続けてきたにも関わらず、何と
知らない曲の多かったことか(アルバム未収録のシングルB面オンリーの曲だ)。
10ccのB面については「グレートボックス」でかなり補えたが、G&Cは未CD化。
自分の無知・無力を知るにつれて、絶望的な気分に陥ってしまった。

1993年、10ccが16年ぶりに来日した。コンサートの客の入りはイマイチだったものの、
中古屋で、にわか10ccリバイバルが巻き起こった。しかも、かなりお値打ち価格で。
それまで「買わなくてもいいや」と思っていた日本盤も「まあいいか」と買いまくった。
だが問題の『アルバム未収録曲』は、国内未発売シングルがほとんどだ。
90年代に入り、中古輸入盤を売る店が増えたとはいえ、シングル盤の入荷は少ない。
仕事場の近くにあった「パーフェクト・サークル」(現在は移転)で、イギリス盤と
オランダ盤の中古シングルを何枚か見つけたものの、音源完全制覇は「夢のまた夢」。
……だが、それが夢でなくなる日がやってきた。
1997年4月末、ついに私はインターネットの世界で漂流を始めたのである。



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